日本山岳遭難データベースの作成

緒言

人口の高齢化にともない登山者の年齢も高齢化している。高齢者は運動能力の低下や各種疾患の有病率も高く事故が起きやすいと考えられている。
しかしながら、登山中の事故の発生率や疾患の発症率についての報告は少ない。
これは、遭難全体を網羅するデータベースが欠如していることと無縁ではないだろう。山岳遭難の各事例報告はあっても、個別報告にとどまり、全体の数を統計学的に比較できる報告数が揃っていない。
そこで我々は、日本国内における山岳遭難の既存の報告を集約し、各種研究に役立てることができるよう山岳遭難データベースを構築した。

方法

基となる遭難データは、各警察署が公表しているWebデータを利用した。
巻末一覧参照
その他、山と渓谷別冊
これはシリーズ3冊刊行されており、2000年から2011年までのデータを抽出することが可能である。
用語の統一
各警察署によっても使われる言葉が異なる。
転落、滑落、転滑落としているところもある。
また、低体温症が一般的になったが、長野県警では恒久的に疲労凍死という言葉を使い続けている。
地域の分類
北海道や北アルプス、南アルプスなどのように、おおよそ決定されている分類はあるが、戸隠一帯や、丹沢と秩父に挟まれた地域のように分類困難な場所も多い。
研究者にとっては気候が近似している場所、一般向けには交通機関別が地域分類の妥当性に有用なファクターとなるであろう。
データベース
できる限り汎用のブラウザで使用できることを前提に、CMSであるWordpressVer2.46を使用した。
これは、データベースコアをMySQLとし堅牢性を確保した上で、ユーザーインターフェースの部分はWordpress組み込みの機能や公開されているプラグインでまかなうことが出来る。

結論

これらを合わせると、2000年から2016年現在までで、おおよそ、6000件の遭難データを集めることができた。
しかしながら、情報の収集が多岐にわたっているため、同一の事件を重複して掲載している可能性もある。データベース利用の際には注意が必要である。

考察

データベースの信頼性は、隙間のないデータの集約にかかっている。
ところが、今回集めることができたデータは、山と渓谷別冊を除いてはインターネット上に保存されていたものに限られてしまった。
このため、同一地域で同一期間を比較することも困難であるし、また一年通じて収集できた地域もない。
今後、より正確なデータベースとするためには、刻一刻と公表されるデータを集める前向きなデータ収集が必要となる。